植物数理モデリング(Plant Mathematical Modeling)ホームページについて

現在、解析手法のめざましい発展とともに、分子レベルでの我々の知識は飛躍的に増大しています。しかし分子的実体を明らかにすることと、生命現象を理解することは同義ではありません。特に発生、分化、形態形成、進化などの高次の生命現象の理解において、分子的実体やそれらのネットワークを明らかにすることは現象理解の第一歩にしかすぎません。そこで生命現象を理解する手法の一つとして、数理モデル解析が今後重要になっていくと思われますし、実際そのような解析が急速に進展しています。近い将来、数理的解析が生命現象を解析する主要な方法の一つとして用いられるようになると思われます。

この潮流は当然植物科学の分野においても例外ではありません。そのような中で、現在個人として数理モデル解析に興味があったり、また数理モデル解析を自身の研究に取り入れたいと考えている方は決して少なくないと思います。そしてそのような方の中には、身近に相談できる人がなく個人レベルで悩まれている方も多いかもしれません。そこでこのホームページは植物科学の分野において、数理モデル解析に興味がある方々の情報交換の場として立ち上げました。

ご意見、ご要望、ご質問その他何でもかまいませんので、掲示板に投稿して頂くか、もしくはこのホームページの管理者(藤田浩徳:)まで連絡してください。
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お知らせ


第55回 日本植物生理学会 シンポジウム「葉序パータンの数理と生成機構」2014318(富山大学(富山)

日本発生生物学会シンポジウム 植物の逆襲 ー植物の形作りの理論モデルと実験ー 2013528(くにびきメッセ(松江)jsdbss_20130510.pdf

日本植物学会第76回大会 2012915()17() 兵庫県立大学(姫路)

Turing Symposium on Morphogenesis 

--- Mathematical Approaches Sixty Years after Alan Turing --- 2012827()31(仙台国際センター
第22回 日本数理生物学会年会 2012910()12(岡山大学

さきがけ数学塾「数学を使う -生命現象への挑戦-201237()9() 科学技術振興機構(JST)(東京)

CDB Symposium2012 "Quantitative Developmental Biology" 2012326()28(理研CDB

定量生物学の会 第4回年会 2012年1月7日(土)~9日(月) 名古屋大学
シンポジウム「創発と自己組織化-魅惑の非線形2011年11月21日(月)~22日(火) 九州大学
第8回「生物数学の理論とその応用」 
2011年11月15日(火)18日(金) 京都大学
先端数理科学研究科開設記念シンポジウム 2011年10月2日(日)〜5日(水) 明治大学(東京)
第21回 日本数理生物学会年会 2011年9月13日(火)15日(木) 明治大学(東京)



論文情報

植物関係の数理モデルに関する論文を紹介しています。順次増やしていく予定です。



WUSCHEL protein movement mediates stem cell homeostasis in the Arabidopsis shoot apex.

Yadav RK, Perales M, Gruel J, Girke T, Jönsson H, Reddy GV.

Genes Dev. 2011 Oct 1;25(19):2025-30.

SAMの制御にはWUSCLVの相互制御がその中心にある。この関係は有名なパターン形成モデルであるactivator-inhibitor系と相同であり、CLV3は拡散性のペプチドであるのでそのinhibitorに対応すると考えられる。一方でactivatorに対応する拡散性の因子は今まで明らかにされていなかった。今回の論文においてWUS自身が細胞間を移動し直接CLV3を活性化していることが明らかとなり、activatorに対応する因子であることが強く示唆された。この実験結果をもとにした数理モデル解析を行っているが、WUSの自己活性化制御がなく、あらかじめorganizing center(WUSの発現部位)での発現因子(サイトカイニンシグナリング)を設定しているので、このモデルはいわゆるTuringパターンではなく従って自己組織的なパターン形成ではないことに注意が必要である。(H.F)



The filling law: A general framework for leaf folding and its consequences on leaf shape diversity.

Couturier E, Courrech du Pont S, Douady S.

J Theor Biol. 2011 Nov 21;289:47-64.

多くの植物の葉は幾何学的な規則性を思わせる美しい形をしている。しかし実際そこにどのような幾何学的規則が潜んでいるかを明確に示した研究例は少ない。中でもローブのある葉(モミジなど、大きな切れ込みのある葉)のローブ同士のサイズ比、切れ込み同士の深さと角度の関係には系統的にかなり離れた種でも、一定の規則性があるような印象を受ける。この論文では、葉のローブに見られるこれらの規則性が、折った紙をハサミで直線的に切った場合の規則性と同じであることを端的に示している。この幾何学的規則は、芽の中の狭い空間に葉を最大限詰め込むのに適した規則であり、実際の植物の芽を観察すると葉が高度に折り畳まれて芽の内部を満たしている。これらの事実から、植物が芽の中に葉を上手く詰め込むための形態形成メカニズムを進化させてきたことが示唆されている。(T.T.)


Reaction-Diffusion Pattern in Shoot Apical Meristem of Plants.
Fujita H, Toyokura K, Okada K, Kawaguchi M.
PLoS One. 2011 Mar 29;6(3):e18243.
植物茎頂分裂組織パターンのモデル。WUS-CLV相互制御をもとにした反応拡散系に、空間的制約と細胞分裂を組み込んだモデルで、clvやwusなどの変異体をはじめSAMのパターン形成を統一的に理解。(H.F.)
 


VirtualLeaf: an open-source framework for cell-based modeling of plant tissue growth and development.
Merks RM, Guravage M, Inzé D, Beemster GT.
Plant Physiol. 2011 Feb;155(2):656-66.


Model for the regulation of Arabidopsis thaliana leaf margin development.
Bilsborough GD, Runions A, Barkoulas M, Jenkins HW, Hasson A, Galinha C, Laufs P, Hay A, Prusinkiewicz P, Tsiantis M.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2011 Feb 22;108(8):3424-9.
シロイヌナズナの葉の鋸歯パターンのモデルで、2つのフィードバック制御を取り込んでいる。まずauxin-PINダイナミクスにより、葉の周囲に周期的なオーキシンのパターンをつくる。しかしこれだけでは細胞分裂による葉の伸長によってパターンが動いてしまうので、パターンを安定化させるためにauxinとCUC2の相互作用を利用している。(H.F.)

Emergence of tissue polarization from synergy of intracellular and extracellular auxin signaling.
Wabnik K, Kleine-Vehn J, Balla J, Sauer M, Naramoto S, Reinöhl V, Merks RM, Govaerts W, Friml J.
Mol Syst Biol. 2010 Dec 21;6:447.


Oscillating gene expression determines competence for periodic Arabidopsis rootbranching.
Moreno-Risueno MA, Van Norman JM, Moreno A, Zhang J, Ahnert SE, Benfey PN.
Science. 2010 Sep 10;329(5997):1306-11.
根の先端で3000以上の遺伝子群が
約6時間周期の振動をしており、それが基部に向かって移動波として伝播していき、最終的にスポット状に固定化される。その部位(prebranch site)が将来の側根原基の形成部位となる。この現象は脊椎動物の胚発生で行われる体節形成過程とほとんど同じである。動物と植物で周期的構造をつくるのに、同じメカニズムを進化させたことはとても興味深い。またこの現象は物理の分野では結合振動子系と呼ばれている非常に有名な現象である。
 この
論文では数理モデル解析はしていないが、脊椎動物の体節形成に関しては多くの数理モデル解析の論文が出ている。(H.F.)

The mechanism of cell cycle arrest front progression explained by a KLUH/CYP78A5-dependent mobile growth factor in developing leaves of Arabidopsis thaliana.
Kazama T, Ichihashi Y, Murata S, Tsukaya H.
Plant Cell Physiol. 2010 Jun;51(6):1046-54.
シロイヌナズナの葉原基において、発生当初に分裂が活発であった細胞は、発生が進むにつれて、葉の先端部分から細胞周期を停止して分裂を停止する。この細胞周期停止前線は、Cell Cycle Arrest Front(以下AF)と呼ばれている。AFの移動の仕方は、葉のサイズや形の決定に寄与していることが示唆されている。本論文では、AFの移動の仕方が、KLUH/CYP78A5遺伝子の下流に存在すると想定されているMobile Growth Factor (以下MGF) によって制御される、という仮説を、実験とコンピュータシミュレーションによって検証した。結果は、もしMGFがAFを制御しているのであれば、MGFの物理的性質(拡散性や分解性)は限られた特徴を持つこと、を示唆している。(T.K.)

The origin of the diversity of leaf venation pattern.
Fujita H, Mochizuki A.
Dev Dyn. 2006 Oct;235(10):2710-21.
葉脈パターンは非常に多様性に富んでおり、また植物種によりそれぞれ特徴的なパターンを示す。例えば多くの双子葉植物では羽状パターンを、また単子葉植物の多くは平行脈を示す。
この論文では葉脈パターンの多様性の原因について解析している。葉脈パターンは葉の形と葉の成長に強く影響を受け、それらを変化させる事により主な葉脈パターンを再現できる。(H.F.)
  


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2012. 9.16    植物学会シンポジウム「形態形成への数理的アプローチ」
2011. 6. 8     ホームページ公開
2010.11.4     ホームページたちあげ
2010. 9. 9    
植物学会関連集会「数理モデル解析勉強会」
2010.3.20     植物生理学会シンポジウム「数理モデルを通して植物を理解する」